最終更新日:2026年10月10日 | 執筆:Bay3株式会社 代表取締役 三浦一晃
スタッフが10名を超えたあたりから、シフトの相談も、患者さんのクレームも、器具の発注も、すべて院長のところに集まってくる。診療の合間に判断を求められ続けて、院長の時間が足りなくなる。
相談が院長に集まる問題は、誰がどこまで決めてよいかが決まっていないことから起きます。この記事では、歯科医院の組織図をスタッフの人数ごとの例で示し、役職ごとに任せる判断と見る数字の決め方、組織図をつくる手順、ミーティングと評価制度で運用する方法をまとめました。
いまの医院の体制で、どこから役割を分ければよいか迷っている院長は、60分の無料相談で状況をうかがいながら進め方をお伝えしています。
- 歯科医院の組織図の意味と、職種ごとの役割
- スタッフ5〜9名・10〜19名・20名以上・分院ありの組織図の例
- 役職ごとに任せる判断と、見る数字の決め方
- 組織図をつくる5つの手順
- 組織図をミーティング・院内ルール・評価制度で運用する方法
歯科医院の組織図は、職種と役職ごとの役割と、報告の流れを1枚にした図です
歯科医院の組織図は、院長の下に誰がいて、誰が誰に報告し、誰がどこまで決めるかを1枚に書いた図です。開業したばかりの小さな医院では、院長が全員の仕事を見ているので組織図がなくても回ります。スタッフが増えると院長がすべての状況を把握できなくなり、判断が院長に集中して、診療と経営の両方に使う時間が不足します。
組織図を書くと、次のことが分かるようになります。
- スタッフにとっては、自分の役割と、困ったときに誰に相談すればよいか
- 院長にとっては、どの判断をリーダーに任せられるか、どの職種の人材が足りないか
歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士は国家資格の職種で、歯科助手と受付は資格が要りません
| 職種 | 主な仕事 | 組織図での位置 |
|---|---|---|
| 歯科医師(ドクター) | 診断と治療。矯正や口腔外科など専門の分野を持つ先生もいる | 院長・副院長・勤務医 |
| 歯科衛生士 | 国家資格。専門の知識と技術を持ち、歯科医師の指導・指示のもとで、歯石の除去などの予防処置、診療の補助、歯みがきなどの歯科保健指導を行う | 衛生士チーフの下にまとめる |
| 歯科助手 | 国家資格は要らない。診療の準備と片付け、器具の洗浄と滅菌、在庫の管理。歯石の除去など、患者の口の中に触れる処置はできない | 助手リーダーの下にまとめる |
| 受付・事務 | 予約の対応、会計、レセプト(診療報酬の請求事務)、電話と問い合わせの案内 | 受付リーダーまたは事務長の下 |
| 歯科技工士 | 国家資格。被せ物や入れ歯などの技工物をつくる。型取りや装着など患者の口の中での作業は歯科医師が行う。外部の技工所に頼む医院もある | 院内にいる場合は院長の直下 |
表1 歯科医院の主な職種と組織図での位置
トリートメントコーディネーターのように、自費診療の説明や治療の相談を専任で担当する役割を置く医院もあります。歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士は国家資格でできる仕事が決まっていますが、役職は医院が決めるものなので、同じ衛生士でもチーフとスタッフで任せる範囲を変えられます。
歯科助手が受付を兼ねている医院では、1日のうち長く担当しているほうのリーダーの下に置き、組織図に「受付兼務」と書き添えます。パートのスタッフも、常勤と同じ線で書きます。
歯科医院の組織図には、線が2本あります。1本は診療中の処置の指示で、担当の歯科医師から衛生士・助手へ出ます。もう1本は、仕事の進め方・シフト・発注の相談と報告で、スタッフからリーダーへ、リーダーから院長へ上がります。この記事で書く組織図は、2本目の線(相談と報告の関係)を決めるためのものです。
スタッフが10名になったら、院長の下に職種ごとのリーダーを置きます
スタッフが10名以上になったら、院長と現場の間に職種ごとのリーダーを置く組織図に切り替えます。人数は、院長を除いて、勤務医とパートも含めた全員で数えます。
| スタッフの人数 | 組織図の形 | 置く役職 |
|---|---|---|
| 5〜9名 | 院長の下に全員が並ぶ形 | 役職は置かず、職種ごとに相談役を1人決める |
| 10〜19名 | 院長の下に職種ごとのリーダーを置く形 | 副院長(勤務医がいる場合)、衛生士チーフ、助手リーダー、受付リーダー |
| 20名以上(1院) | 院長の下に職種ごとのリーダーと、必要なら事務長を置く形 | 副院長、衛生士チーフ、助手リーダー、受付リーダー、事務長 |
| 分院あり(医療法人) | 理事長の下に各院の院長と事務長を置く形 | 理事長、各院の院長、事務長、各院のチーフとリーダー |
表2 スタッフの人数ごとの組織図の形
院長を中心に全員が並ぶ形は、院長とスタッフのコミュニケーションの距離が近い反面、人数が増えると院長1人で見られる範囲を超えます。
スタッフ10〜19名の医院なら、次のような3段の組織図にします。副院長と各リーダーは同じ段に並び、それぞれ院長に報告します。
図1 スタッフ10〜19名の歯科医院の組織図の例
分院を出すと院長が毎日現場にいられなくなるので、労務・経理・採用の事務をまとめる事務長を置きます。組織図そのものの書き方は組織図の作り方でも説明しています。
組織図は、新しい診療・分院・リーダーの交代があったときに書き直します
医院の成長に合わせて、次のような変化があったら、役職と配置を見直します。
- 訪問歯科や矯正など、新しい診療を始めて担当のチームが増えた
- 分院を出す、またはユニットを増やしてスタッフが増えた
- リーダーが退職や産休に入り、代わりの人を決める必要がある
リーダーの交代に備えて、次のリーダー候補を早期に決め、副リーダーとして経験を積ませておくと、交代のときに業務が止まりません。
役職ごとに、任せる判断と見る数字を組織図に書き込みます
組織図には、役職ごとに任せる判断と、毎週見る数字まで書き込みます。リーダーが自分で決めてよいことが分からないままだと、結局すべての相談が院長に戻ってきます。
| 役職 | 任せる判断の例 | 見る数字の例 |
|---|---|---|
| 院長 | 医院の方針、採用と評価の最終決定、設備の投資、新患の獲得の方針 | 売上、利益、人件費、新患数 |
| 副院長・勤務医 | 治療計画の考え方の統一、若手の歯科医師の指導 | 自費診療の割合、治療の中断の件数 |
| 衛生士チーフ | メンテナンスの予約枠の組み方、新人の衛生士の教育 | 定期検診の来院率、次回の定期検診の予約を取って帰った患者の割合 |
| 助手リーダー | 器具と材料の発注、診療の準備の手順 | 在庫切れの件数、診療の準備の遅れの件数 |
| 受付リーダー | 予約の調整、キャンセルの対策、受付のシフトの組み方、電話対応のルール | キャンセル率、キャンセルが出た枠をその日のうちに埋めた件数 |
表3 役職ごとに任せる判断と見る数字の例(内容は書き方の例です)
- 見る数字は、リーダーが自分のチームの行動で動かせるものにします。売上のように院長でないと動かせない数字をリーダーに持たせても、成果を評価できません
- 数字は毎週数えられるものにし、月1回の集計を待たずに手を打てるようにします
Bay3が6か月で進める支援の例では、2か月目に部署ごとのKPIを決め、誰がどの数字を見るかを組織図に書き込みます。数字の担当が決まると、毎週のミーティングで「この数字は誰が動かすか」で迷わなくなります。
任せる範囲は具体的に書きます。たとえば「在庫の発注は1回3万円までならリーダーが決める」「シフトの交代は同じ職種のスタッフどうしで決め、そのリーダーに報告する」のように、金額と範囲で書くと、リーダーが迷わず判断できます。院長に上げる判断も同じ表に書いておきます。
組織図は、院長が1週間に受けた相談を書き出し、任せる先を決めてからつくります
組織図は、院長がいま判断している業務を書き出し、任せられるものを役職に割り当てる順でつくります。院長の負担を軽減し、判断を減らすのが目的なので、役職の名前は最後に決めます。
- 院長が抱えている判断を書き出す:1週間、スタッフから受けた相談と自分で決めたことを記録します。
- 職種と業務の流れでまとめる:書き出した判断を、予約・受付と事務、診療の準備、予防、治療のまとまりに分け、受付リーダー、助手リーダー、衛生士チーフ、副院長のどこに任せるかを決めます。
- 役職とリーダーを決める:任せ先の職種ごとにリーダーを1人決めます。経験年数や技術のスキルだけでなく、手順1で書き出したその職種の相談に院長と同じ答えを出せるか、スタッフから信頼されているかを見て選びます。
- 役割と見る数字を書く:任せる判断の範囲と、毎週見る数字を役職ごとに書きます。
- 全員に説明して掲示する:全体ミーティングで組織図と役割を説明し、院内のスタッフルームに掲示します。
手順1で書き出した相談のうち、毎回同じ答えを返しているものは、ルールにすれば院長が判断しなくて済みます。「急なキャンセルが出たときの連絡の順番」のように、くり返し来る相談はマニュアルや院内ルールにして、院長が答えなくてもスタッフどうしで解決できる仕組みにします。ルールにしておけば、同じ相談に院長が毎回答えなくて済み、診療の時間を効率よく使えます。院内ルールのつくり方は歯医者の院内ルールでまとめています。
担当ごとの数字の目標と実績、今週やったこと、来週やること、リーダーのコメントを書ける週報と、月曜朝15分の会議の議題表が入っています。組織図に書き込んだ数字を、毎週のミーティングで確かめるときに使えます。
フォーマットを受け取る組織図をつくったら、リーダーが集まる毎週15分の会議で数字を確かめ、決めたことを院内ルールに残します
組織図をつくったら、リーダーが集まるミーティングと全体ミーティングの役割を分け、決めたことを院内ルールに残します。リーダーを置いても話し合う場がなければ、情報はこれまでどおり院長に集まります。
| ミーティング | 参加する人 | 頻度と決めること |
|---|---|---|
| リーダーミーティング | 院長、副院長、チーフ、リーダー | 毎週15分。数字の確認と、未達の課題と打ち手、誰が・何を・いつまでにやるか |
| 職種ごとのミーティング | チーフ・リーダーと各職種のスタッフ | 月1〜2回。手順の改善、新人の教育の進み具合 |
| 全体ミーティング | スタッフ全員 | 月1回。医院の方針の共有、院内ルールの変更の案内 |
| 経営会議 | 院長(理事長)、事務長 | 月1回。売上・人件費の確認、採用と設備の投資の判断 |
表4 組織図を動かすミーティングの例
- リーダーミーティングは、Bay3が支援で入れている月曜朝15分の会議の形にすると、診療の前に終えられます。この15分は労働時間として扱います
- 職務分掌(役職ごとの仕事の範囲)とマニュアルは、組織図と同じフォルダに置いて、新しいスタッフの研修でも使います
- 院内のチャットや予約システムなどのツールで相談を受ける場合も、誰が返事をするかを組織図に合わせて決めます
リーダーミーティングでは、各チームからの改善の提案を聞き、決めたことを現場で実践できているかを次の週に確かめます。Bay3の週報・週次ミーティングのフォーマットでは、15分の会議の最後の1分を、先週決めたことの確認に使っています。組織図が機能しているかは、院長に直接来る相談の件数が減っているかで確かめます。会議の種類と頻度の別の組み方は、歯科医院の組織マネジメントでも紹介しています。
支援した歯科医院の1つでは、中長期経営計画、院内のルールと組織図、役職ごとの役割と見る数字、Googleスプレッドシートの週報と月曜朝15分の会議、等級表・個人評価表・給与テーブル・賞与テーブルによる評価制度の構築まで進め、スタッフ全員の研修も行いました。評価制度の導入から1年で年商は約2.2倍になり、上方修正した売上目標に対しても120%を達成しています。スタッフのやる気と定着率が上がったこともうかがっています(数字は支援先からうかがったもので、業績の変化には市場や支援以外の取り組みの影響も含まれます)。歯科医院(医療法人)の院長からは、「以前は院内の決定事項がすべて院長である僕のところへ相談に来ていたのですが、組織化されたことで各役職ごとに案が出て、上司がそれを修正し、質の高い状態で最終決定できるようになりました。スタッフたちの能力の高さにも日々気づかされます。」という声をいただいています。
役職を決めたら、評価制度と研修でリーダーを育てます
リーダーに役職を与えたら、等級と評価の基準で期待する役割を示し、研修と面談で育てます。役職名だけを付けて権限と役割の説明がないと、リーダーはスタッフに指示を出しにくく、院長も任せきれません。
リーダーは、外から採用するより、いまいるスタッフから選んで育てる前提で組織図を書きます。いまの医院の手順と、患者さんに提供している診療を知っている人材のほうが、任せる判断の範囲を決めやすいからです。
| 段階 | 院長がやること |
|---|---|
| 役職に就いた直後 | 任せる判断の範囲を本人と確かめ、スタッフ全員の前で発表する |
| 最初の3か月 | 週1回の面談で、判断に迷った場面を聞き、考え方を伝えてサポートする |
| 半年後 | 評価面談で、役職の役割をどこまで果たせたかを評価項目で確かめる |
| 1年後 | 任せる範囲を広げるか、次のリーダー候補の育成を始めるかを決める |
表5 リーダーを育てる段階と院長がやること
- リーダー向けの研修プログラムは、外部のセミナーを活用しても、院長が月1回の勉強会を開いてもかまいません
- リーダーが育つ環境をつくるには、判断を間違えたときに責めず、次に同じ場面が来たらどう決めるかを一緒に決めます。リーダー自身の悩みも、この面談で聞きます
リーダーを決めたあとも、院長がシフトや発注、手順の変更までスタッフに直接決めて伝えていると、スタッフはリーダーを飛ばして院長に相談するようになります。診療中の処置の指示は、これまでどおり担当の歯科医師が出します。それ以外で、リーダーに任せた範囲の相談が院長に来たら、その場で答えずにリーダーに戻し、院長はリーダーから報告を受ける形にそろえます。
職種ごとの評価項目は歯科医院の人事評価制度、衛生士の主任に求める評価項目は新人から主任までの歯科衛生士評価項目、役職手当を含めた給与の決め方は歯科医院の給与テーブルの作り方で書いています。
歯科医院の組織図についてよくある質問
スタッフが何名になったら、組織図をつくるべきですか。
目安は10名です。10名からは職種ごとのリーダーを置く形に切り替えます。10名未満でも、診療中に相談で手が止まることが増えたら、職種ごとに相談役を1人決めた簡単な組織図から書き始めてください。
事務長は置いたほうがよいですか。
分院があるなら置きます。1院で20名以上なら、労務・経理・採用の事務に院長が月に何時間使っているかを書き出し、その時間が診療や面談を削っているなら置きます。10〜19名なら、受付リーダーに事務の一部を任せ、労務は社会保険労務士、経理は税理士に頼む形を先に検討します。
院長の家族が働いている場合、組織図ではどう書けばよいですか。
ほかのスタッフと同じく、担当する業務と役職で書きます。家族であることを理由に組織図の外から指示が出ると、スタッフは誰の指示を優先すればよいか迷います。経理や労務を担当しているなら、その役割と、スタッフへの指示はリーダーを通すことを明記します。
リーダーに役職手当は必要ですか。
付けます。任せる判断と責任が増える分を、給与でも示します。額は、役職の役割と評価の基準と一緒に給与テーブルで決めておくと、スタッフに理由を説明できます。なお、役職手当を払っていても、衛生士チーフや受付リーダーは労働基準法の管理監督者には当たらないことがほとんどなので、残業代は別に払います。
まとめ:歯科医院の組織図は、役職ごとの判断と数字まで書いて運用します
歯科医院の組織図は、院長に集まっている判断を役職に分けるための道具です。任せる判断と見る数字まで書き込み、ミーティングと評価制度で使い続けると、院長が診療と経営に時間を使えるようになります。まずは次の3つから始めてください。
- 1週間、スタッフから受けた相談と自分で決めたことを記録する
- 職種ごとにリーダーを1人決め、任せる判断の範囲を金額と範囲で書く
- リーダーが集まる毎週15分のミーティングを始める
いまのスタッフの人数と、院長に集まっている相談をうかがいながら、役職の置き方、任せる判断の範囲、見る数字の決め方をお伝えします。オンライン(Zoom)で60分です。
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